第15話   加茂水族館長村上龍男氏   平成16年07月27日  

714日新潟に大洪水を引き起こした低気圧が引き続き県南に停滞している。その為、折からの大雨の中を午後2時半に加茂の水族館長村上龍男氏を訪ねた。氏は鶴岡市では人格者としてかなり有名な方で、何よりも無類の釣好きで通っている。

用件は去る73日に鶴岡の土曜講座「庄内竿の魅力」の講師であった館長の村上龍男氏に庄内竿についてお聞きしたい事と事務室に飾られていると云う二間二尺ほどの古い庄内竿を見たくての訪問である。過去に釣の本等を何冊かを書き更に新聞、雑誌等に良くエッセイなどを書いておられる氏を写真では幾度となく拝見していた。それで館長となるような人物であるから、少し気難しい人物ではないかと思っていた。だが、実際お会いして見るととても気さくな好人物である事が分かった。お昼過ぎに水族館に電話を入れてご都合を聞いて、お会い出来るかどうかを聞いてみた。そうしたら、簡単に「2時に来客の予定があるので2時半だったら良いです」との返事を貰った。

急いで昼食を済ませ予定の2時半を少し回った頃に加茂の水族館に到着した。入り口に行くと丁度村上龍男氏が入り口の近くにおられ、すぐに事務室に向かい入れてくれた。釣り好きの方だけに、直ぐに竿の話になると、事務室にある竿掛けから竿を取り出して振らして頂けた。二間二尺ほどの古い庄内竿は、少し太くて胴に来る竿でアブラコ釣の感じもあるが、二歳を釣っても大層面白そうな延べ竿である。氏が作られたと云う四間一、二尺の竿も中々の竿と拝見した。その中の一本に私好みの柔らかな良い竿があった。こんなに長い竿は最近ではまったく作られておらず、まして売られては居ない。「良くこんな長い竹を探せましたネ?」とお聞きすると「いや、まだまだ探せば長いのも有りますヨ!」と云う。7月3日の講演の後で、致道博物館の近くのA氏のお宅に伺って4間くらいの良い竹を拝見し、取っても良いとの了解を貰って来たと云う。最近自分が竹藪をいくつかは見ているが、二間一尺ほどの竹はあるものの、4間等という長いニガ竹等はついぞ見た事がない。そのA氏と云うのは庄内藩の武士の元屋敷で市内の真ん中に2千坪ほどの屋敷があり、その庭は3年ほど前にテレビの共聴の仕事中に拝見した事がある。仕事中の事とて、遠くから「苦竹が植えてあるナ!」と見て分かっていたが、仕事の合間にチラッと拝見したお庭だったので竿に出来る竹があるかないか迄は到底確認などは出来るはずもなかった正にその竹薮であった。

最近の氏は軽くて柔らかな矢竹の竿にハマっているという。講演会場で一度見せてもらった矢竹の二間半の竿をもう一度振らせてもらえた。これは酒田の本間家の庭園から貰ってきた竹で、細く長くするために作られた後家竿である。庄内で後家竿と云うのは元来一本の竹を切って二本もしくは三本継ぎにするところを他の竹を合わせて作られ竿を云う。庄内竿本来の作り方ではないが、関東など他の地方ではそれが当たり前の作り方となっている。だから竿の調子も比較的簡単に好みに合わせて調整出来ると云う利点がある。

加茂の離岸提で中型の黒鯛(黄鯛)を釣るために作ったというその竿は、魚が釣れると胴が満月に曲がるという典型的な胴調子の竿で釣っては大変面白そうな竿であった。ただ矢竹はニガダケと異なり肉薄で強靭でもないので、魚の引きが限度を超えた場合折損の危険性が大きい。氏は当然それもご承知の上で遊び竿のつもりで作られたという。氏は典型的な庄内釣りの継承者としての遊び心をお持ちな様である。量より質を重点にした遊釣としての釣を実践なされているようだ。


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